春を迎える日光の行事
ごあいさつ
日光山には日光山内地区と奥日光を中心にたくさんの堂社があります。輪王寺・東照宮・二荒山神社に属する国宝・重要文化財の建物だけでも103棟を数えますが,小さな堂社も含めると実に枚挙のいとまもありません。
どんなに小さな堂社でもそれぞれに仏や神がお祀りされています。すべてではないにせよ堂社や仏神には祭礼があります。ですから,日光山にはたくさんの堂社にそれぞれの祭礼が伝えられ,一年を通じて行事が執り行われています。
日光の春は新春を迎え正月を祝う修正会に始まり,二月の節分,四月の強飯式へと続きます。強飯式は毎年4月2日に開催され,山伏姿の僧侶が大椀に高盛りされた飯を「食え食え」と責める姿がよく知られています。責めにあうのは大変そうですが,強飯頂戴人は高い身分に限られ,大変な名誉でもありました。ともあれ,山伏から山中の神仏に捧げた供物を功徳とともに里の人びとが受け取ったことが始まりと伝わる日光らしい行事です。
寒さの厳しい日光にとって,雪と氷の真冬から温かな春に向かうころの行事はひとつひとつが待ち遠しいものです。今年は残念ながら感染症の流行のため強飯の儀式は取りやめになってしまいましたが,せめて長く伝えられてきた行事の道具や資料によって,春を迎える行事を楽しんでいただければ何よりに存じます。
令和 4年2月
輪王寺宝物殿
【主な展示品】 ☆国宝 ◎重要文化財
☆大般涅槃経集解 第40巻 1巻 平安時代
◎鋳銅半肉千手観音像 1面 平安時代
強飯図 松岡辰方筆 2幅 江戸時代
強飯式用大煙管 1管 宝暦14年(1764)
旧本坊絵図 1幅 江戸時代
日光御山之絵図 1幅 江戸時代
伊万里焼 金襴手 大皿 1枚 明治19年(1886)
大隈重信奉納 花瓶 1口 明治14年(1881)奉納
勝海舟手製花瓶「拈華微笑」1口 明治時代
公益財団法人德川記念財団常設展示
*日光山輪王寺宝物殿は德川記念財団の特別協力館です。
雪月花
ご 挨 拶
「雪月花(せつげつか)」、趣のあるこの3つの景物は、特に四季の自然美の代表的なものとして、冬の雪、秋の月、春の花を指し、今日ではそうした景物をめでる風流な態度そのものを示す語句としても用いられます。
唐代中期の漢詩人・白居易の詩句「雪月花時最憶君(雪月花の時、最も君を憶う)」を由来とし、日本においては既に平安中期の『千載佳句・憶友』『朗詠・下』にもみられ、特に後者によって普及し、「つきゆきはな」という和語を誕生させるに至りました。
文豪・川端康成は「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて 冷しかりけり」という曹洞宗の開祖道元が詠んだ四季の美の歌を、自然の景物の代表をただ無造作にならべただけの、しかし日本古来の心情がこもっている歌、と評価しています。つまり、四季折々の自然が魅せる、日々のありふれた情景を素直に美しいと思う心は、昔から日本人が大切にしてきた文化といえるのではないでしょうか。
本展示では、雪・月・花をモチーフにした徳川宗家ゆかりの作品を展示致します。作品を通して、日常のすぐそばにある普遍的な美を感じ取っていただけましたら幸いです。
令和4年2月
公益財団法人 德 川 記 念 財 団
今後の常設展示についてのお知らせ
德川記念財団は、本展示を最後に、資料整理・調査のため2022年4月12日(火)をもって常設展示をしばらくの間休止いたします。2025年度中の再開を目指し、多くの皆さまにより良い展示をご覧いただけるよう、努めて参ります。ご理解ご協力のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。