お知らせ

2022年01月05日法話

お手昆布式

                                                     輪王寺宝物殿館長

                                                       柴田 立史

 

 輪王寺のお正月は、もちろん大晦日の除夜の鐘から始まります。顕教のお祈り・密教のお祈り、いくつものお祈りが重ねられます。三仏堂内でも外陣と内陣とで同時進行で行われています。例年でしたら野外で山伏の野天採燈大護摩供が修法されていたのですが。今年は護摩堂で護摩供が修法されます。朝になってからも修正会などが行われます。朝のお祈りが一段落という頃になって、僧侶の年賀式が行われます。私達は「お手昆布」式と呼んでいましたが、上座の長老から順に一人ずつ、上段の間におられる御門主(住職)の前まで進み出て頂戴するものです。板昆布の10㎝✕3㎝ほどのものを二枚、頂戴するものです。 

 十代の頃は、なんだか大げさな行事だなあ、偉そうにしてるなあ、と思いながらも、気圧(けお)されるものがありました。なかで同期の僧が数人いましたので、つい、次は自分だと立ち上がりましたら、師匠から声がかかり「お前は後だ、下がれ」と言われてしまいました。満座の中で恥ずかしい思いをしてしまいましたが、以後は心すること、己(おのれ)の位置を知ることと、他への配慮をすることの大切さを刻み込むことになりました。一言で一生の思い出になった大切な経験でした。

 多分、「お手昆布」式は、ことば遊びの「よろこぶ」の掛(か)け詞(ことば)なのでしょうが、お金をかけて飾り付ければ素晴らしい儀式だ、などと言うものでは無く、ささやかな心の願いを込めて、余計なものをとり捨てて、喜びが来ますようにと用意された年の初めの儀式のお品(プレゼント)として古式の儀礼から残された形なのではないでしょうか。ほんのり心温まる嬉しいお品です。

 今は七十を越えて、既に長老役の歳になってしまいましたが、年寄りの目でこの「お手昆布」式を拝見しますと、お一人おひとりの気構えや思いが所作の中にほの見えて来るもので、拝見させて頂く大切な儀式だと感じています。

 

良い年になりますように祈りおります。

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