2021年04月27日法話
最澄上人ご遺誡
輪王寺 教化部長
菅原道信
天台宗祖師伝教大師最澄上人は浄土に旅立たれる折、「怨みをもって怨み報ぜば怨み息まず。徳をもって怨みに報ぜば怨みすなわち尽く。」とのご遺誡をのこされました。これは「怨みに対して怨みで返せば際限はない。しかし徳で返せば怨みは終わるのだ。」という意味です。
仏教では「怨み」は、三毒と呼ぶ三つの苦しみの原因の一つ「瞋恚(しんい)」とされ、四苦八苦の八苦の中の「怨憎会苦(おんぞうえく にくしみあう者同士が会う苦しみの意)」とあるように、人間が持たざる得ない苦ととらえます。
最澄上人は、この苦を滅するには徳を使いなさいと言われました。
では徳とは何でしょうか。
それは「忘己利他」の精神です。上人は、「人に怨まれたら、優しい気持ちで赦してあげて、慈悲の心で尽くしてあげなさい。」と言っておられるのです。
大無量寿経というお経に「和顔愛語」という言葉があります。これは布施行(ふせぎょう)という仏道修行にも通じる真理であり、「おだやかな顔と思いやりのある話し方で人に接しなさい」という教えです。
人づきあいの際はこの「和顔愛語」を忘れないことが肝要です。それでも行き違いがあり、もしも怨まれてしまったら、「忘己利他」の精神でお付き合いしてみてください。それこそが最澄上人のお心にかなうことであり、やがて怨みは息んでいくことと存じます。
因みに本年(令和三年)六月四日は、伝教大師千二百年大遠忌の御祥当忌に当たります。